パーキンソン病

パーキンソン病とは

■パーキンソン病とはどんな病気ですか

絵は「Gowers WA:A manual of the nervous system.1983」より引用

症状は動作が遅くなる(動作緩慢)、手足の振るえ(振戦)、筋肉が硬くなる(筋強剛)、さらに進行した時期には姿勢が不安定になるといった症状がみられます。

そのため、歩行が小刻み、すり足になって遅くなったり、手をリズミカルに動かすことが苦手になります。前かがみの姿勢にもなります。顔の表情が乏しくなったり、声が小さくなったりします。

このように運動症状が主ですが、便秘、臭覚障害、レム睡眠行動障害も比較的早期からみられます。

■どの位の年齢の方が多いのですか

パーキンソン病は中高年で発症することが多い病気です。まれに若年での発症もみられます。高齢で発症した時には、高齢のためといって見過ごされたりされていることがあります。

■診断はどのようにするのですか

どのような症状(症候)がみられるかという診察と、その症状がいつからどのように起こってきたかという問診が基本になります。

パーキンソン病なのか、それともパーキンソン病と似たような症状を示す病気(これらの病気をまとめてパーキンソン症候群といいます)とを見分けるために検査を受けてもらうことがあります。

検査には頭部CT, MRI,ダットスキャン、MIBG心筋シンチグラフィーなどがあります。

>>パーキンソン症候群/進行性核上性麻痺

■治療はどうするのですか

治療は薬物療法が基本になります。その他に手術による脳深部刺激利療法(DBS)や、またリハビリテーションがあります。

■薬はいつから始めるのですか、ずっとのみ続けるですか

症状のため日常生活が不自由になったり、仕事に支障をきたすようであれば開始した方が良いでしょう。パーキンソン病の薬はずっとのみ続ける必要があります。

パーキンソン病のお薬

パーキンソン病の症状は主には脳内のドパミという物質の欠乏によって起こります。現在のお薬は、この不足をいかにしておぎなうかといったものです。中心的なお薬はエル・ドパ製剤です。しかし、エル・ドパ製剤も長くのんでいるといろいろな問題がでてくることがあります。そのため、比較的若い人では他のお薬から始めることが多いです。

毎日のお料理がどんな食材からなっているかと同じように。

自分がのんでいるお薬の名前を覚えておきましょう。

「白い錠剤」だけでは分からない場合があります。

1.レボドパ製剤(合剤)

ネシット
ネオドパストン
イーシー・ドパール
ネオドパゾール
マドパー
スタレボ(コムト阻害薬との合剤)

2.アゴニスト(ドパミン受容体刺激薬)

麦角系非麦角系
パーロデル
ペルマックス
カバサール

ニュープロパッチ
ビ・シフロール
レキップ
ミラペックス
ハルロピテープ

3.マオB阻害薬

エフピー
アジレクト
エクフィナ

4.塩酸アマンタジン

シンメトレル

5.抗コリン薬

アーテン

6.ドロキシドパ

ドプス

7.コムト(COMT)阻害薬

コムタン

パーキンソ病のお薬の副作用

■パーキンソン病のお薬の副作用はどんなのがあるでしょうか

比較的のみ始めて初期に多いのが吐き気です。そのためレボドパ製剤など初めてのまれる場合は、吐き気止めの薬を一緒にのんでもらうことがあります。アゴニストの場合は、効果がでる量まで徐々に増やしていきます。

また眠気をきたすこともあります。眠気の中には“突発性睡眠発作”といって急に眠ってしまうことがあります。車を運転されている場合にはこのようなことがおこらないか注意が必要です。

その他には頻度は低いのですが起立性低血圧、や足のむくみ(浮腫)などがあります。

また最近欧米で麦角系のアゴニストを服用している患者さんで心臓の弁膜症が報告されています。

長期にお薬をのんでいる患者さんでは幻覚が生じるころがあります。幻覚については長期にお薬を服用しているときにみられる問題ー幻覚についてーをみてください。

長期にパーキンソン病のお薬を服用している時にみられる問題

パーキンソン病のお薬も始めはよく効いていても長くのんでいるといろいろな問題がみられることがあります。

■長期にパーキンソン病のお薬を服用している時にみられる問題

 ー運動症状についてー

1.最近レボドパ薬の効果が短くなってきたのですがーウエアリング・オフについて

レボドパ製剤を長く服用していると次第に効いている時間が短くなって切れている時間帯がみられることがあります。これをウエアリング・オフといいます。例えばレボドパ製剤をのんで3時間位すると効果が切れてきてまたお薬を飲むと30分ぐらいすると効いてくるといった具合です。

2.そのときはどのようにしたらいいのですか

いくつかのやり方がありますが、1つはマオB阻害薬を使ってみます。あるいはアゴニストを増量してみます。確実なのはレボドパ製剤の回数を増やすことです。たとえば3時間で効果が切れてしまうのであれば3時間ごとにのむといったのみ方です。その場合はレボドパ製剤の一日の錠数が増えることになります。

3.食後にのまなくてもよいのですか

レボドパ製剤は効果のきれる時間帯がでるようであればそれに合わせて服用して構いません。とくにレボドパを飲んでもなかなか効かない場合は空腹時に飲んでみることを試してみます。 空腹時の方がお薬の吸収がよいのです。

4.その他にどんな問題がおきることがありますか

体や手足がくねくねと勝手に動くことがあります。これはジスキネジアとよばれる不随意運動です。不随意運動というのは自分の意思ではなく、すなわち随意ではなくて勝手に体が動いてしまうことを言います。振戦 (ふるえ)も不随意運動です。

5.ジスキネジアがでた時はどうしたらよいでしょう

ジスキネジアはおおくはレボドパ製剤に対して脳が敏感に反応するようになって、効きすぎて出ることが多いのです。だからレボドパの量を少なくすればジスキネジアも大抵少なくなります。しかし、レボドパを1回に1錠のんでいてジスキネジアがでている場合にレボドパを半錠に減らすとジスキネジアは無くなりますが、レボドパの効果がでなくて動けないこともあります。それでもジスキネジアが出ている場合はマオB阻害薬やアゴニストを服用していればそれを減量してみます。いずれにしろお薬を減らすので、動きにくくなることがあります。そのため多少のジスキネジアで患者さんにとってトラブルになっていなければ特にお薬はいじらなくてもよいです。また塩酸アマンタジンを服用することによってジスキネジアが軽減することもあるので試してみてもよいでしょう。

■長期にパーキンソン病のお薬を服用している時にみられる問題

 ー幻覚についてー

1.幻覚がでることがあると聞きましたが、どのようなものですか

パーキンソン病が進行すると、幻覚がでることがあります。普通は“ないものがみえる”といった幻視です。例えば家の中に子供がいるといったり、あるいは小さな虫がみえるといったものです。幻視も本人が幻視と自覚して余り気持ち悪がることがなければ見過ごしていてもいいでしょう。でも、例えばご飯のうえに虫がいるので食べられないとか、あるいは現実と区別がつかなくなるといった状況では幻視をなくすようにします。

2.幻覚をなくすにはどのようにしたらいいですか

パーキンソン病自体でも幻覚は出ますがパーキンソン病のお薬は幻覚を誘発させる可能性があります。幻覚がでている患者さんは複数の種類のパーキンソン病薬をのまれている方が多いので、徐々に量を減らして薬の種類を少なくします。減らすのは抗コリン薬、ドロキシドパ、塩酸アマンタジン、マオB阻害薬などから減量・中止していきます。それでも幻覚がコントロールできなければアゴニストを減量し、場合によっては中止しレボドパ製剤のみとします。

パーキンソン症候群

パーキンソン症候群とはパーキンソン病と似た症状を示す病気です。パーキンソン症候群に入る病気を以下に示します。

  • 血管性パーキンソン症候群:脳の血管の動脈硬化による
  • 正常圧水頭症:髄液の循環が悪くなる
  • 進行性核上性麻痺
  • 大脳皮質基底核変性症
  • 多系統萎縮症
  • 薬剤性パーキンソン症候群


進行性核上性麻痺(PSP)
パーキンソン病に比べてかなり少ない病気で高齢者にみられます。病気の初期から転び易いといった歩行の不安定さや、眼の動きが悪い(特に上方、下方)といった症状がみられます。進行すると飲み込みが悪くなったり、言語が不明瞭になったりします。パーキンソン病治療薬はパーキンソン病のときのようにははっきりとした効果を示すことは少ないです。

大脳皮質基底核変性症(CBD)
進行性核上性麻痺とおなじ様に少ない病気で、やはり高齢者にみられます。右とか左とかどちらかの手足から症状がでて、その左右差が病気の進行してもはっきりしていることが多いです。例えば片側の手が使いにくくなって、手の筋肉が硬くなり(筋強剛)、そのうち上肢がある姿勢で固まってきてしまいます。反対側の手足にも同様な症状がでてきます。手が震えたり、かってに動いてしまうといった不随意運動がみられることがあります。進行性核上性麻痺とおなじようにパーキンソン病治療薬はあまり効果がありません。

薬剤性パーキンソン症候群
 ーパーキンソン症候群を起こし易い薬剤ー
パーキンソン症候群をきたす可能性の高い薬物(一般名で記載)

A. 抗精神病薬、抗ドパミン作用をもつもの
1. フェノチアジン系:クロルプロマジン、レボメプロマジン、ペルフェナジン、など
2. ブチロフェノン系:ハロペリドール、ドロペリドール、など
3. ピモジド
4. ベンザミド系:メトクロプラミド、クレボプリド、シサプリド、スルピリド、チアプリド
5. レセルピン
6. 非定型抗精神病薬:リスペリドン、ペロスピロン、オランザピン、クエチアピン
B. Caチャンネル阻害薬: フルナリジン、シナナリジン

(参照)森 秀生、水野美邦 :薬剤性パーキンソニズムとパーキンソン病ー総論的にー.医薬ジャーナル40:69-72,2004

アルツハイマー病

■アルツハイマー型認知症とはどんな病気ですか

病理学的にリン酸化タウによる神経原線維変化とアミロイドβたんぱくによる老人班の二つの変化を特徴とするアルツハイマー病によって大脳皮質、海馬などで神経細胞が死に認知症を発症する病気です。

■どのような原因でなるのですか

どのようにしてこの病気になるかの詳細は分かっていません。しかしリン酸化タウやアミロイドβが神経細胞死を誘発し、軽度認知機能障害や認知症を発症する機序が推定されています。

■アルツハイマー型認知症の症状には何がありますか

特徴的な症状は海馬の障害による物忘れや物盗られ妄想がみられ、前頭葉の障害による自発性の低下がみられます。

■その他にはどんな症状がありますか

時計、立方体等の複雑な図形の描画が難しくなったり自分の家を認識できなくなったりします。また、普段よく用いる道具の使い方がわからなくなったり、洋服も自分ではうまく着られなくなってきます。

■どのように進行していきますか

記憶力の低下とともに仕事や家事を行う能力の低下が初期に気づかれます。

進行すると自発的に動かなくなったり、同じ事を繰り返したり、同じ事にこだわるようになります。怒りっぽくなったり、我慢がしづらくなってきます。これらの症状に対して本人は病気であるという認識はありません。最終的には自身の身支度や食事、トイレなども出来なくなります。言葉の理解や発語も出来なくなり、立ったり座ったりといった基本的な動きも出来なくなり寝たきりの状態となります。

■治療法はどうなのですか

アルツハイマー型認知症の認知機能改善に使用可能なお薬がいくつかあり、これらは有効性を示す科学的な根拠もあります。貼り薬や液体に溶かして内服できるタイプのものや1日1回内服すればよいものなど症状や生活に合わせて選択できますのでご相談ください。

出典:病気がみえる メディックメディア社、

認知症疾患診療ガイドライン2017 日本神経学会

レビー小体型認知症

レビー小体:白く縁取られた赤い玉のような構造物、神経細胞にみられる

■レビー小体型認知症とは

レビー(レヴィ)小体とはパーキンソン病の神経細胞にみられる異常構造物ですが、レビー小体型認知症はこのレビー小体がひろく大脳皮質にも多数みられ、認知症で発症する病気です。

■あまり聞きなれない病名ですが

レビー小体型認知症(レヴィ小体型認知症)という病名は10年位まえから言われだした新しい病名です。ただ病名が成立するには1980年頃よりの

小阪憲司先生(横浜市立大前教授)ら日本人の研究者の仕事が端緒でした。レビー小体型認知症は英語名のdementia with Lewy bodiesを略してDLBともよばれます。

■アルツハイマー病とはどう違うのですか

高齢者の認知症でしばしばアルツハイマー病と間違われ易いです。早期から幻視(ないものが見える)やパーキンソン病と同じように動作緩慢、歩行障害といった運動症状がみられれば疑う根拠になります。

■パーキンソン病と似た面もあるのですか

脳にレビー小体がみられたり、症状もパーキンソン病と同じような運動症状もよくみられるので、パーキンソン病とつながった病気とも考えられます。パーキンソン病の1つのタイプといった考え方もできると思います。

■診断はどのようにするのですか

症状が認知症に加えて、幻視やパーキンソン病様の運動症状がでたりすれば疑われます。またはっきりしているときと反応が鈍いときがあるといった特徴もあげられています。

検査としては心臓の心筋シンチグラフィーや脳血流シンチグラフィーというアイソトープをもちいた検査が役に立つという研究がだされています。

■治療はどうするのですか

アルツハイマー病に使われる塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)が症状の軽減に有効であるとの海外の研究結果があります。ただし日本ではまだ保険での適応になっていません。

前頭側頭型認知症-ピック病

■前頭側頭型認知症とはどんな病気ですか

前頭側頭型認知症はピック病ともいいますが、これは最初にこの病気を報告したのがアーノルド・ピックという医師が報告したことに由来します。

大脳の前頭葉・側頭葉というところが萎縮(やせる)のが特徴です。

■どのような原因でなるのですか

ピック球:神経細胞の中に、核と並んでみられる(矢印)

どのようにしてこの病気になるかはわかっていません。ただし、いくつかのタイプがこの病気にはあることがわかってきています。一つはピック球(写真)という異常構造物が神経細胞の中にたまるタイプです。

あと最近わかったものとしてTDP-43、FUSという蛋白がたまるタイプもあります。このようにいくつか異なる原因があると考えられます。そのため一つの病気というよりいくつかの病気に分かれると考えられます。そのため長い間使われていたピック病という用語はピック球がみられるタイプに限って最近では使う傾向にあります。

■どんな症状の病気なのですか

人格、性格が極端に変わってしまったといった症状がまずみられます。例えば騒がしく軽々しくなった。派手になってやたらと買い物をするようになった。逆に何もしないでじっとしているようになった。不潔で平気でいる。また店でものをとって食べて平然としている。このように常識からは外れるような性格・行動のパターンがみられます。躁うつ病と紛らわしい場合もあります。はじめの頃は記憶力は保たれていて、初期から記憶力が低下するが人格は保たれているアルツハイマー病とは対称的です。このような認知症を前頭側頭型認知症といいます。

■その他にはどんな症状がありますか

その場とは関係ないフレーズがいつも繰り返しでてくることがあります。例えば”水をのんでいるからね”というフレーズを状況とは関係なく話すことです(滞続言語といいます)。また単語がなかなかでてこないという失語症の症状で発症することもあります。この場合は段々言葉がでなく話せなくなってきますが、先に述べた人格・性格の変化は目立ちません。また物事の理解もよくできていて”認知症”とは異なります。

■そうすると認知症とは限らないのですか

そうです。先の言葉が段々でなくなる症状は進行性失語症と呼ばれるタイプです。その他に 言葉の意味がわからなくなるタイプがあります。これはとくに物の名前の意味することがわからなくなり例えば”電話”を指してこれはなんですかと聞いても答えられず、電話ですかと確認してもわかりません。しかしながら日常生活の中で電話は普通に使っています。

このように物の言葉の意味するところはわからないのですが、その物をみて何をするものかはわかるのです(語義性失語とか語義性認知症とか呼ばれる症状です)

認知症とは限らないので元の病気全体を前頭側頭葉変性症と言う場合もあります。

前頭側頭葉変性症を示す病気にはピック球(リン酸化タウ)をもつもの、TDP-43、FUSがたまるものがあるといえます。

また症状からみると前頭側頭型認知症、や進行性失語症それに語義性失語症を示すタイプがあるといえます。

■治療法はどうなのですか

なかなか病気の進行を抑えたり、あるいは症状をコントロールするいいお薬はありません。

■進行していくのですか

徐々に進行します。しかし進行はゆっくりで年単位ですすみます。

2020年8月1日 更新